被相続人名義の銀行口座をそのまま使ったらどうなる?法律的な問題点とトラブル例

相続

2025.12.08

被相続人名義の銀行口座

親や配偶者が亡くなったあと、被相続人名義の銀行口座に残っているお金を「生活費として使いたい」「そのまま使ってもいいのか?」と考える人は少なくありません。

しかし、銀行口座の名義人が死亡したあとにそのまま使うことには、法的にも問題があります。後で重大なトラブルにつながるケースも多いため、正しく理解しておく必要があります。

銀行口座は死亡すると凍結される

相続人は、被相続人が死亡したときは銀行に連絡する必要があります。そして、名義人が死亡したことを確認すると銀行は口座を凍結します。
これは、遺産を特定の相続人が勝手に使ってしまうことを防ぎ、遺産分割の公平性を保つための仕組みです。

凍結されるタイミング

銀行が死亡の事実を知った時、口座は自動的に利用停止になります。

  • 親族からの連絡
  • 役所からの死亡情報の通知
  • 葬儀代の支払いなどで銀行に問い合わせたタイミング
  • 振込人が死亡を知らせた場合

など、様々なきっかけで凍結されます。

凍結前にそのまま使った場合はどうなる?

凍結前であればキャッシュカードや通帳で入出金ができることになります。しかし、名義人が死亡している以上、遺産の分割をしない間に引き出してそのまま使ってはなりません。

法的トラブルになる可能性がある

名義人が死亡した時、銀行口座の預金は相続財産になります。そのため、死亡後に特定の相続人が勝手に使うと、次のような問題が発生します。

①他の相続人から返還を請求される可能性

相続人全員の共有財産であるため、勝手に引き出せば相続人から返還を求められる可能性があります。

②相続放棄ができなくなる

銀行口座の預金を勝手に使うと、相続を単純承認したものとみなされます。民法では「単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」と定められており、単純承認をした場合は借金も含めてすべて承継することになります。そして、単純承認をした以上は相続放棄をすることはできなくなります。

なお、仮に相続放棄をした後であっても、単純承認とみなされる可能性があります。

③刑事責任に問われる可能性も

相続開始後の無断引き出しは横領罪の構成要件に該当する可能性もあります。 家族間で刑事事件になることは少ないですが、「兄弟間で争いになり、警察に相談された」というようなことが起こる可能性が考えられます。

「葬儀費用」は引き出してもいい?

民法第909条の2によれば、各相続人は単独で下記額を引き出せます。

・引き出せる額=預貯金債権×1/3×法定相続分

※上限は150万円

これは、預貯金の仮払いともいわれており、葬儀費用などを相続財産から拠出できるようにするためのものです。ただこれは、あくまで被相続人の葬儀等のための制度であり、自由に銀行口座から引き出してもよいという意味ではありません

無断で使った場合のトラブル例

下記、現実にありうるケースをいくつかご紹介します。

①相続開始後、長男がATMで50万円引き出していた

(状況)

  • 被相続人の死亡直後、口座が凍結される前に長男がキャッシュカードで50万円を引き出した
  • 長男は「葬儀費用に使った」と主張
  • しかし領収証がなく、他の兄弟が納得しなかった

(結果)

  • 遺産分割協議がまとまらず調停へ
  • 長男は50万円を遺産に戻すことで和解

(ポイント)
葬儀費用であっても「証拠がない」「勝手に引き出した」という点でほぼ確実に揉めます。


②被相続人と同居していた娘が生活費として勝手に入出金

(状況)

  • 被相続人と同居していた娘が、被相続人の死亡後も生活費や公共料金の引き落としに口座を使用
  • 他の相続人に無断で、合計30万円ほどが使用された

(結果)

  • 他の兄弟が「死亡後の使用は認められない」として返還請求
  • 娘は「生活費だから仕方ない」と主張したが認められず
  • 戻せない分については遺産分割で娘の取り分を減らす形で調整

(ポイント)
「生活に必要なお金だから使った」というのは正当な理由とはいえないでしょう。


③無断引き出し額が100万円を超え、刑事相談に発展

(状況)

  • 長年疎遠だった長男が、死亡後に被相続人の通帳とカードを使って100万円以上を引き出した
  • 他の相続人は葬儀にも協力しておらず、支出理由も不明
  • 話し合いに応じず、返金も拒否

(結果)

  • 相続人の一人が警察に「横領ではないか」と相談⇒横領事件に
  • 最終的には返還の形で落ち着く

(ポイント)
家族間でも、悪質と認められると刑事事件として扱われることがあります。


④親の介護中の費用と混ざってしまい、使途不明金が問題に

(状況)

  • 親の介護を続けていた長女が、親の死亡後も口座をそのまま使用
  • 介護費用、雑費などが入り乱れており、使途が不明確
  • 他の相続人が「本当に介護に使ったのか?」と疑念を持つ

(結果)

  • 数年分の取引明細の提出を求められる
  • 明らかに説明できない支出(衣服購入、旅行など)が30万円以上
  • その分は返還する取り扱いに

(ポイント)
介護と混在する支出は特に揉めやすいです。適切に管理することが求められます。

まとめ

名義人が死亡した銀行口座をそのまま使うことは、法律上も実務上も大きな問題につながります。

  • 口座は銀行が凍結する
  • 死亡後に勝手に使うのは違法の可能性
  • 他の相続人から返還請求される
  • 葬儀費用であっても無断使用はNG
  • 正しい方法は相続手続きによる払い戻し

お金に関することは後で揉めると長期化しやすい分野です。銀行口座は絶対に「そのまま使う」ことは避け、使用する前に必ず遺産分割などで財産の整理をしてから手続きを行いましょう。

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