被相続人名義の通帳を兄弟に使われてしまったら?相続人が取るべき対応と法的ポイント

相続

2026.02.17

相続の預金を 兄弟に使われた

以前の記事(被相続人名義の銀行口座をそのまま使ったらどうなる?法律的な問題点とトラブル例)において、被相続人名義の銀行口座をそのまま使ったらどうなるかについて解説しました。

では、実際に被相続人名義の銀行口座を他の相続人に使われてしまった場合の対処はどうしたらよいのでしょうか?この記事では、相続人として取るべき対応について解説します。

相続人が親の預金を勝手に引き出したら

相続開始と同時に預金は相続財産になる

まず前提として、被相続人が亡くなった時点で、その預金は相続財産となり、相続人全員の共有状態になります。 したがって、特定の相続人が単独で全額を引き出す権限はありません。

不当利得返還請求

不当利得返還請求とは、法律上の原因なく他人の財産や利益によって得をし、その結果として他人に損失を与えた者に対し、その利益の返還を求める制度です。

制度の趣旨は、公平の理念に基づき、正当な理由のない財産的移転を是正する点にあります。

そして、相続人が勝手に親の口座から預金を引き出すこともこれにあたります。
もっとも、遺産分割協議が既に成立しており、それに基づいている場合などは「法律上の原因」があるため、不当利得にはなりません。

受益者(例:亡くなった親の預金を勝手に引き出した人)は、その引き出した預金に利息を付して返還する義務を負い、さらに損害があればその賠償責任も生じ得ます。不当利得返還請求は契約責任や不法行為責任とは異なり、違法行為の存在を必ずしも前提としない点に特徴があり、あくまで財産的な不均衡を調整する制度です。

実務では、預金の無断引き出しのほか、お店においてのおつりのもらいすぎ、料金の重複支払いなど日常生活においてもさまざまな場面で問題となってくる制度です。
もし、相続人が勝手に親の口座から預金を引き出していた場合、この「不当利得返還請求」に基づいて返還を請求することができます。なお、引き出しについて故意又は過失がある場合は不法行為に基づく請求も可能です。

よくあるケースは?

亡くなった親の通帳を見せてもらえない

例えば親と同居していた長女が、通帳の管理を行っていた場合に、次女から通帳を見せるよう求められた際に拒否されたというケースが考えられます。

使途不明金がある

通帳や取引履歴を確認したところ、説明のつかない引き出しがある場合、相続人間の紛争に発展することが少なくありません。この場合、取引履歴を金融機関から取り寄せ、客観的な証拠をもとに話し合うことが重要です。

「親のために使った」と主張し、開示に応じない

よくあるのが、同居していた兄弟などが、「引き出したお金はすべて親の介護費用や生活費に充てた。自分のためには一円も使っていない」と主張するケースです。 しかし、具体的な領収書や家計簿などの提示を拒んだり、生前の親の生活水準に照らして明らかに高額な引き出しがあったりする場合、他の相続人からすれば「使い込み」を疑わざるを得ません。 「親の面倒を見ていたのだから、多少の出費は細かく報告しなくていいはずだ」という心理的な甘えが、深刻な親族間トラブルの火種となります。

実際、福岡の宮内法律事務所に寄せられるご相談の中でも、このケースは非常に多く、最も解決が困難なパターンの一つです。当事者同士では「信じている」「裏切られた」という感情論が先行してしまい、客観的な話し合いが事実上不可能になってしまうからです。

こうした行き詰まった状況を打破できるのが、弁護士の存在です。

身内同士では拒絶されてしまう資料の開示も、弁護士が介在することで、前述した「弁護士会照会」などを駆使して客観的な取引履歴や証拠を収集することが可能になります。 「使ったはずだ」という疑念を、「いつ、いくらが、何のために使われたのか(あるいは使われていないのか)」という法的な事実に置き換える。これこそが、泥沼化した親族間の対立を解決へ導く唯一の道です。

宮内法律事務所では、福岡の地で多くの相続トラブルに向き合ってきた経験から、相手方の主張の矛盾を突き、適正な遺産分割を実現するためのノウハウを蓄積しています。

口座を使われてしまったときの対応

まずは話し合いを

まずは相続人間で話し合いをして、解決方法を探るのが一番です。感情的にならず、まずは事情を確認することが大切です。葬儀費用など正当な支出であれば、遺産分割協議の中で整理できます。話し合いで解決すれば、大きな問題にならず相続人間の負担も少なくて済むでしょう。

取引履歴を取得する

話合いで解決しない場合、銀行に対して取引履歴の開示を請求します。相続人であることを証明すれば、一定期間分の履歴を取得できます。ここで、使途不明な取引履歴が見つかった場合、また話し合いで解決方法を探ることをお勧めします。

話し合いで解決しないとき

話し合いで解決しそうにないときは、弁護士に相談することをお勧めします。弁護士はトラブルになった際に法的解決策を取ることができるほか、弁護士会照会など弁護士でないと利用できない制度も用意されています。

相続における弁護士の財産調査と弁護士会照会

財産調査は、紛争解決における出発点です。請求権を実現するにも、防御権を適切に行使するにも、まずは「事実」と「財産状況」を把握する必要があります。そして、財産調査は弁護士に依頼することをお勧めします。この理由の一つに、弁護士しか行うことのできない財産調査として「弁護士会照会」があります。

弁護士会照会制度とは

弁護士法23条の2では、弁護士が受任事件の処理に必要な事項について、所属弁護士会を通じて公私の団体に照会できる制度を定めています。

弁護士会照会は、「裁判所の命令ではない」「しかし単なる私的な問い合わせでもない」という中間的性格を持ちます。

弁護士会照会は「弁護士会」が行います。
これは、個々の弁護士の恣意的な情報収集を防ぎ、公益的チェックを経た上で社会に協力を求める構造になっていることを意味します。

照会を受けた側には原則として報告義務がありますが、強制執行や刑罰による担保はありません。 このように、本制度は「法的義務と任意協力の中間領域」に位置づけられます。

なぜ弁護士会照会という制度があるのか

弁護士が、相続人間のトラブルなど何らかの争いを解決しようとするとき、その証拠とするための資料を収集することが必要です。

ただし、その証拠は必ずしも依頼者が持っているとは限らず、企業など(例:金融機関)が持っていることも多いです。

弁護士の職務の持つ公共性からこのような制度が設けられています。

弁護士会照会で取得できる情報

弁護士会照会は、以下のような財産関連情報の取得に用いられます。

  • 銀行口座の有無や取引履歴
  • 証券口座の保有状況
  • 不動産の所在確認
  • 勤務先情報
  • 保険契約の有無

特に、相続分野では被相続人名義の預貯金や保険契約の有無を確認するために利用されることが多いです。

もっとも、照会が認められるのは「受任事件の処理に必要な範囲」に限られます。
抽象的・網羅的な探索的照会は許されません。

プライバシーとの調整

財産情報は、個人のプライバシーに属する情報です。
しかし、弁護士会照会は法令の根拠に基づくものですから企業が照会に回答しても、個人情報の取り扱いなどを定めた「個人情報保護法」には当然には違反はしないとされています。

解決事例

高齢の親が亡くなった事例

【ポイント】親と同居していた相続人が、遺産分割前に預金を使い込んでいた疑いがありました

相続人間で遺産分割協議を開始したものの、特定の相続人が「他にも預金が存在するはずだ」と主張して協議が停滞していました。

他方で依頼者自身も生前の取引状況を十分に把握しておらず財産の全体像が不明確であったため、当職が受任のうえ財産調査を行いました。

その際、複数の金融機関に対して、被相続人名義口座や証券口座の有無、残高、一定期間の取引履歴等を必要最小限の範囲で具体的に特定して照会を行ったところ、不明な取引履歴があり、最終的に当初は存在が確認されていなかった財産があることが判明しました。

この事例では、相続人による預金引き出しの疑いがあったため、相続人間で大きなトラブルに発展する恐れがありました。

しかし、手続きを丁寧に整えたことで、約3000万円の遺産を円満に分割することができました。

[不当な使い込みを法的に追及できるのは弁護士だけです。その理由を解説](←直近でコラム記事を更新予定)

まとめ

被相続人名義の銀行口座を使われてしまった場合、そのお金は原則として相続人全員の共有財産です。本人に無断で引き出した場合は、不当利得や不法行為などの問題が生じる可能性がありますが、被相続人の介護のために使用したなど正当な支出であることが証明できれば返還や支払いを免れることが出来る場合もあります。

重要なのは、

  • 事実関係を正確に把握すること
  • 感情的にならず冷静に対応すること
  • 必要に応じて専門家に相談すること

相続に関する預金トラブルは、早期対応が何より大切です。不安がある場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

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